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東京地方裁判所 昭和31年(タ)42号 判決

国籍

アメリカ(マサチユーセツツ州)

住所

東京都練馬区南町二丁目三千七百二十番地

原告

ニドワード・アーサー・ヒヒンズ

(訴訟代理人

佐々川知治 外二名)

国籍

アメリカ(マサチユーセツツ州)

住所

アメリカ合衆国ジヨージヤ州アトランタンミヒーリービリデイグ四〇五、

弁護士 ダグラス・シー・ローダーデレル法律事務所気付

被告

リリアス・エム・ヒヒンズ

主文

原告と被告を離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として原告は千九百十一年八月二十三日米国マサチユーセツツ州において出生した米国人であるが千九百三十四年四月十八日米国ヴアーモント州において米国人たる被告と婚姻した。併し婚姻後程なく両者の性格の相違が著く到底夫婦としての家庭生活を維持することの困難であることを悟つたが、当時被告は既に原告との間に子供を懐胎しており間もなく子供が生れたため離婚を思い止まりその養育に専念してきた。しかるにその後原告と被告との間には次のような婚姻を継続し難い重大な事態が発生した。

一、第二次世界大戦に出征した原告が千九百四十六年帰還してみると約七千弗に達する原告の預金が全部被告名義に書替えられていたのでこれが返還を申出たところ、被告はこれに応じないのみか原告に対し、「くたばつて了え」と云うような暴言を浴びせた。

二、被告は又原告の上司に対し、原告が米政府の財産を盗んだり、被告を虐待して扶養しなかつたり、或は女秘書と不倫関係を結んだ等、いずれも虚構の事実を捏造して報告した。これがため当時原告は陸軍大尉であつて間もなく少佐に昇進する機会が到来していたにも拘らず、千九百五十三年六月三十日曹長に降級させられて退役することを余儀なくさせられた。

以上によつて窺われる如く被告は原告に対する一抹の愛情の持合せすらなく唯金銭的利益にのみ汲々とし且つ原告に対し著しい精神的虐待を加えた。

而て原告と被告とは是等が原因となつて既に千九百四十九年以来別居生活をしており原告は、千九百五十三年六月三十日の退役以来日本に居住し将来も日本に永住したい希望を持つている。

そして法例第十六条によれば離婚の準拠法は離婚事由の発生した時における夫たる原告の本国法即ち米国マサチユーセツツ州の法律によるべきところ、一方同国国際私法は離婚については当事者又はその一方の住所の存する法廷地法によることとされている。

そこで本件については原告の住所地たる日本の民法によるべきところ、以上原告主張の事由は正に同法第七百第七十条第一項第五号にいう婚姻を継続し難い重大な事由ある場合に該当する。よつて原告と被告を離婚するとの判決を求めるとのべ、立証として甲第一号乃至五号証を提出し原告本人尋問の結果を援用した。

被告は適法な送金を受け乍ら終始口頭弁論期日に出頭せず、且つ答弁書其の他の準備書面も提出しない。

理由

結婚許可証出生証明書及び宣誓供述書であることによりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一号証、乃至四号証及び原告本人訊問の結果によれば、原告は千九百十一年八月二十三日米国マサチユーセツツ州において出生した米国人である千九百三十四年四月十八日当時陸軍々人であつた原告は同じく米国国籍を有する被告とヴアーモント州の法律に則つて婚姻したこと、もつとも原告は被告に対し当時余り愛情を持合せていなかつたけれども、その頃既に被告は原告の子供を懐胎していたため止むなく気の進まぬまま婚姻したものの両者間の愛情の欠如、被告の我侭等が原因で常に家庭内のいざこざが絶えず、就中第二次世界大戦に出征した原告が千九百四十六年本国に戻つてみたところ同人所有の預金約六千弗がすべて被告名義に書換えられており、又千九百五十二年被告は原告の上司たる軍当局に対し原告が軍隊の品物を盗んだり、被告に虐待を加えたり、被告に対する扶養義務を怠つたり、或は大酒を呑んだり、女秘書と不倫関係を結んでいるなどいずれも虚構の事実を捏造して報告する等いろいろいやがらせを行つたため、当時大尉であり程なく少佐に進級する筈であつた原告はこれらが原因となつて翌千九百五十三年六月曹長の階級に引下げられて軍隊から身を引くに至つたこと、又被告は生来横暴で婚姻以来しばしば原告に対して暴力を振い又極めてわがままでしかもぜいたくであつて、度々家を飛出して散財し原告名義で借財などをしたこと、又千九百五十二年被告は進んで原告方より去つた上、原告に対し別居維持を求める訴を起したことなどもあつて、常々原告に対し精神的虐待を与えていたことが窺われる。

飜つて法例第十六条第二十七条第三項によれば離婚の準拠法は離婚事由の発生した当時における夫たる原告の本国法即ち米国マサチニーセツツ州の法律によるべきものとされているが他面同国々際私法によると離婚について当事者又はその一方の住所の存する法廷地法によるべきものとされている、そして原告は千九百五十三年以来引統き日本に居住して一定の職業を持ち将来も日本に永住し度い希望を持つていること原告本人訊問の結果及び旅券査証であることにより真正に成立したものと認められる甲第五号証によつて窺知することができるので原告の住所は日本に在るものというべきである。そこで本件については法例第二十九条により日本民法を適用して判断すべきところ右認定の離婚事由は正に同法第七百七十条第一項第五号にいわゆる「婚姻を継続し難い重大な事由のあるとき」に該当する。

よつて原告の請求を正当と認めてこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 菅澄晴)

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